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わらびもちのピンク
わらびもちが好きだ。なにせ凝りやすい性なので、ここのところ週に三度は食べているだろうか。これまでに、老舗の和菓子屋さんのわらびもち、行列の人気店のわらびもち、デパートの地下で見かけたわらびもち、いろんなわらびもちを食べた。

大きな声では言いにくいが、いろいろあるわらびもちのなかでわたしがいちばん好きなのは、スーパーで売られているあの水色のトレイに入ったものだ。ああいう姿のわらびもちは、わたしが子どものころからスーパーで売られていた。今のと違うのは、透明のいかにも冷たくぷるぷるしたわらびもちの集まりの端っこのほうに、たしか二つだけうすピンクいろのわらびもちが入っていたことくらいだろうか。

三人兄弟だったから、このひとパックのわらびもちを三人で分けて食べた。まずきな粉をかけるところから誰がきな粉をかけるかでひと悶着ある。権利を勝ち取った一人がちいさなビニル袋入りのきな粉を、慎重にまんべんなくかける様子を後の二人は固唾をのんで見守る。つい、ふーっと息を吐いてしまって、きな粉が飛んだりしたらひどく責められた。

一人一本ずつ爪楊枝をもってきて、順繰りに一つずつ食べていくのだが、決まってうすピンクのわらびもちを誰が食べるかでもめた。味が変わるわけでも、とりわけ美味しそうなわけでもないのに、あのうすピンクには抗いがたい魅力があり、じゃんけんで負けたりしようものなら、一番小さい妹など身をよじって、涙を浮かべてくやしがった。

三人で順繰りに食べるわらびもちは、いつでもすぐに食べ終わってしまい、残ったきな粉なんかを指につけてなめても、いつも物足りなかった。いつか一人であのわらびもちをおなか一杯に食べたい、ピンクのところも独り占めして食べたいものだと思ったものだ。子どものお腹にはあのひとパックみんなは多いという理由で、母はいつも三人で分けて食べさせていたのだろうけど、あれほど食べたいと思っていたのに、不思議に母に一人ひとつ買ってほしいとは言わなかった。

大人になって、そしてだいぶ大人になった今でも、わらびもちをひとパック全部一人で食べるのはうれしい。うれしくておいしいのだけれど、うすピンクのところがないことと、爪楊枝を手に手に目を爛々とさせた兄弟たちがいないのは少しつまらないのかもしれない。

〇わらび餅口中のこの寂寥よ  堀井春一郎